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【貨幣の裏目に一重の縁・金の糸】  通鎧蘭の一日 昼休み

7thDRAGON 学園パラレル 「番長と委員長」 小説   

【貨幣の裏目に一重の縁・金の糸】



委員長・通鎧蘭の一日 昼休み






「財布を出しなさい明王寺南無菜」
「出会い頭にカツアゲかい」
「いいえ、社会福祉よ」

ただの募金よ、と簡潔に事情を説明すれば、ああそれならと、躊躇いもなく財布を渡してきた・・・・・・投げて。
避ける。
いくら入ってるのか知らないし、知りたくもないが、財布の扱いの雑さに、蘭の口からやっぱりと思わず溜め息が出た。

「うわっと、と・・・・・・え? ・・・・・・・え? えぇぇぇぇ!!?」

扉を開けた蘭の真後ろをついてきたので、運悪くそれをキャッチしてしまった青髪の福祉委員は目に見えてうろたえた。幾ら入れてるのか、傍目に分厚い財布だ。
そしてそれを躊躇なく投げつける行為が理解できない、物の扱いが悪いとかそういう次元ではない。これだから金持ちは。
わかりきっていたことだが、いや、わかりきっていてはずでも、ほんのちょっとでも心の中で、もう少し常識的な行動をしてくれるのではないか、などと期待していた自分が情けなかった。

「ちょっ!!? 番ちっ違っ、明王寺さん!!? いや、財布ごとはナイって、流石にこれはない」
「ある」
「・・・・・・い、委員長ぉ。こ、これ、いったいどうすれば・・・・・・?」

溜め息を一つ、銃弾を防げそうなくらい厚い財布を持って所在なさげに蘭に助けを求める福祉委員から、財布をひったくる。ついでに募金の入ったスチール缶も。
目にもとまらぬ速さで動いた蘭の手に二人が驚く暇もなく。

「こんの、バカ!! 程度ってものを考えなさい!!」

大きく振りかぶって、財布を南無菜におもいっきり投げつけた。見事な顔面キャッチ。
クラスメイトの善意が籠ったスチール缶に罪は無いので、そちらは普通に手渡す。

財布を掴んだ右手にぞわぞわと鳥肌が立つのを感じて気味が悪いので、汚い物を払うかのように上下に振る。

「なんだ、面倒だな」
「面倒でも何でもいいから」

後から、この財布はなんだかんだと問い詰められるほうがよほど面倒だと説明すると、一応理解したのか財布を開いた。

幸いにも、蘭は直前で目をそらしたので嫌な物、具体的には最高額紙幣を見ることは無かった。
傍らでは、福祉委員が目を丸くしながら呆けている。
札束を無造作にスチール缶にねじ込むと。蓋をして投げ渡してきたので、キャッチ。

「ほら」
「え、あ、うん」

隣で呆然としている腕の中に流れるように渡す。
福祉委員の子がおずおずと、それでいて嬉しさが隠しきれないのか、零れ出た笑顔で色羽根を南無菜に差し出した。
気恥ずかしいのか南無菜は無言で受け取ると、むっすりと批難の眼差しで蘭の方を見る。
感謝の言葉なんて、怨嗟の声と同じくらい耳にしているだろうに、慣れていない、こういうところだけは変わっていない。顔を真っ赤にするくらいの可愛げがあればいいのに、残念ながら顔色だけは涼しげだ。
その視線に跳ね飛ばすように睨みつけてやると、ふいと南無菜は受け取った羽根で子猫をじゃらし始めた。
思わず溜息を吐くと、面白そうに私達を伺っていた福祉委員に気づく。見せもんじゃないわよ。

「引きとめて悪かったわね、早いとこ持って行ってあげなさい」

言外に、要がすんだらさっさと行けと、威嚇。

「あはは、じゃ、またあとで委員長!! 明王寺さんも協力ありがとう!!」
「ああ」
「そうね・・・・・・ってコラ! そういうもの持ってるときに廊下を走るな!!」

ごめーん、責任持って届けてくる。そう言うと大切そうにステンレスの缶を胸に抱え、蒼いポニーテールを揺らして福祉委員は去って行った。早足で。急く気持ちは変わっていないが、走らないならそれでいい。
どうでもいいけれど、この幼馴染の番長が明王寺さんとか呼ばれてるのを傍から見ると、妙な気分だ。
番長であるからには、舎弟とか居そうなものだが、今の時代そんなものはいない。
いまごろカワウソを妖怪だとデマを広げるものはいないのだから。


後ろ姿が廊下の向こうに消えるのを見届けると、蘭は南無菜と向き合った。

「相変わらず、面倒見がいいな」
「そういうキミは、相変わらず社交性が無いわね。あと常識も」

胡坐をかいて座っている南無菜を見下ろすように、木造の壁に背を預ける蘭。
場所は朝と変わらず旧校舎。使われなくなった、そのわりに取り壊される様子もなく放置された空間。
不良のたまり場となりそうなものだが、御覧の通り一年生ながら喧嘩はめっぽう強い『番長』こと明王寺南無菜の縄張りと化しているため、比較的それらは少ない。
基本的に学園に来ても特に何もしてない南無菜は、なにか騒がしいと暇つぶしを求めて顔を見せるからだ。で、気に入らないと喧嘩を売る。大安売りだ。カツアゲ現場が喧嘩場に早変わりする。

朝と同じ部屋、同じ風景。相変わらずの日なたぼっこ。大きい窓から差し込む日はゆるく温い。
朝の時に南無菜の安眠をやわらかく包み込んでいた高級毛布は、何時の間にかきれいさっぱり消えていた。あのメイドの仕業であろう。言うまでもないことだが不法侵入だ。
にらみ続けていても埒が明かないという風に、蘭が額によった皺をもみながら頭を振るい、会話を始めようとした。

「で?」

にゃあ

だがしかし、会話の出鼻を子猫の泣き声に遮られ、おもわず溜め息が漏れた。ヤル気も殺気もこそぎ落とされ薄れてゆく。
肺の中から陰鬱な空気を絞り出す、一度深呼吸をすると、今はもう使われてない部屋の静まり返った空気に余計に気が重くなる気がする。
木造建築が暖かい雰囲気であるなんて幻想だ、ここまで無音が重苦しい場所もそうないだろうと思う。好んで足を向けたくなる場所ではない。
此処にいる全ての現況をジロリと、目を半眼にして、南無菜の膝の上にいる子猫を見ながら口を開く。

「それで、一体この子猫のどこら辺が化けてるっていうのよ?」

ついでに、妖怪だなんだと言いながら、膝の上で等のそれをじゃらしているとんちんかんの行動が蘭には理解できない。

「あー・・・・・・なんとなく?」
「蹴るわね」
「いやいや待て、なんというかな、どうにも説明しずらいんだ」

自分から手助けを求めてきておいて、そのやる気の欠片もない返答は無いだろう。脳みそ使ってるのか?いや、多分精一杯使ってようやく出した答えがそれなんだろうなぁ。
蹴ろう。もうどうでもいいから、一発ぶちかましたい。

その気配を悟ったのか、少しだけ必死そうな顔をして南無菜は言い訳を始めた。

「その、なんだ・・・・・・化け猫というか・・・・・・コイツを見つけた場所では、話に聞いた【夜な夜な町のペット達を襲う化け猫】なんてのは見当たらなかったんだ。居たのはコイツを虐めてたバカどもで、そいつらはとりあえず追い払ったんだ・・・・・・が」

そこで、南無菜は口を濁す。言いたくないことがある、というわけでもないらしい。単純に言葉が続かないのだろう。
片手で頭を抱え、もう片方の手で、胡坐をかいたその膝の上で丸くなっている子猫を所在なさげに撫でる。
その様子は。本当に、どういう文章にして蘭に伝えるかを迷っているような感じを受け取った。

「なんて言うか、なんとなくおかしいんだよ。そういうふうに言うしかないっていうか。スマン説明できない。化け猫って言っても、『あーなるほど、コイツは化け猫だ』って納得するくらいに変な猫なんだ」
「ふぅ、わかったわ。とりあえずキミの説明能力の低さを嘆いても仕方がないけど・・・・・・変な猫ねぇ? この子が?」

蘭は、改めて子猫の様子を見た。
落ち着いたブラウンの毛色は、薄汚れていてお世辞にもきれいとは言えないし、栄養状態も良くないのだろう露骨に痩せているのがわかる。
病気とか大丈夫なのかしら、あぁ馬鹿は風邪引かないか。
無意識で幼馴染をなじりながらも、思う。

確かにみすぼらしく、見ようによっては嫌悪感が出るかもしれないが、それでも溢れ出る小動物オーラを前にして妖怪だと決めつけるような考えが出来るものなのか?

「で? 具体的には?長くつ履いて二本足で立って釣りでもしたの?」

それは妖怪じゃなくて妖精だ、などと言う南無菜ではない。
蘭にしてみても、妖怪も、妖精も、UMAも、都市伝説も、全部ひっくるめて胡散くさいものだ。到底信じられそうもないが、話を聞く程度の分別はあるつもりだった。

「そこまであからさまじゃないが、そうだな、テレパシーっていうのか? なんか、考えてることというか、感じてることが分かるっていうか」

もちろん魔法もESPも同じく胡散くさいだけである。
いくら外国では実用化されつつあると言っても、胡散臭いものはどこまでいっても胡散臭いのだ。

とりあえず、好き嫌いを言ってもこの場では何の解決にもならないと、溜め息を一つ。

「・・・・・・それじゃ、今はどうなのよ?」
「特に何も考えてないんじゃないか」
「動物なんて大抵そんなもんでしょ」

まず常識が身に付いていない南無菜に、何が常識で何が非常識なのかを教えることから始めるべきなのか、非常に悩むところだった。
胡散くさそうな表情を崩さない蘭に、南無菜は仕方が無いとかぶりを振りながら手をあげた。

「じゃ、こっち来て、手、出してみな。」
「先の見えた機嫌取りをする必要なんてないわよ」
「いいから来いって」

すぐさま却下するが、南無菜はいいからいいからと聞く耳持たずにちょいちょいと手先で呼び寄せる。
強気というわけではないが、南無菜がこういった態度をとって聞く耳を持たない場合は何を言っても無駄だ。
なによりも、蘭の動物に近づきたくない理由が、酷く利己的なものであるから、一応は拒否したものの強くは逆らわなかった。
しぶしぶと溜め息を吐きながら近づく。

実のところ、この通鎧蘭、曲りなりにも女子高生、無類の動物好きだ。とくに鰐が好き。
裏腹に、何の因果か、ありとあらゆる動物に好かれない呪わしき体質の持ち主でもあったのだ。
犬に手を差し伸べれば噛みつかれ、猫を撫でようとすれば引っ掻かれ、ウサギを手渡されると必ず蹴り飛ばされ、動物園にでも行った日にはケージ越しでも威嚇される。
釣りに行けば何のギャグか長靴を釣り上げ。公園のハトは軒並み飛び立つし、かの表記記号Gの悪魔でさえも一睨みで進路を変える。動物どころか昆虫にさえ嫌われている。
秋の夜長にふと外に出た日には、あたり一面のコオロギの鳴き声がことごとく消えうせ。突然の無音にしばし呆然と立ち竦した思い出があった。
唯一、夏に蝉に鳴かれず、蚊に刺されもしないのが、この対生物嫌われ体質(人間以外)の利点と言えば利点なのかもしれない。
そんなわけで、通鎧蘭は自分から動物に近づこうとはしない、期待して近づく分悲しみもひとしおになるだけだからだ。
しかし、明王寺南無菜はそんなことお構いなしに、子猫をその大きい両手で持ち上げて、額を合わせるよう視線を合わせて話し出す。


「いいか、よく聞け猫。まかり間違ってもコイツを引っ掻くなよ。機嫌損ねたら、なにされるかわかったもんじゃないからな。わかったか?」

にゃあ

「いくらなんでも動物虐待はしないわよ」
「虐待じゃなかったらするだろう」
「自己防衛もしないで何が武か、ってことかしらね」
「なんでもいいから、いやよくないが・・・・・・よし、いいぞ。さぁ撫でてみろ」

にゃあ

応じるように鳴く子猫だが、蘭に猫語は通じない。というか、人間に人間以外の言葉が通用するはずが無い。
ときたまペットと心が通じていると仰る方がいるが。語尾に「〜だにゃん♪」とつければいい物でもないだろうに。
人間には物事を好意的に解釈するという、とても素晴らしい自己完結能力がある。
まぁ、幸せそうなら、それはそれでいいのかもしれないが、それに他人を巻き込まないでほしい。
テレパシー云々もそんな風に、実は子猫じゃなくてコイツの妄言だとすると、いろいろと手間がかからないでよろしい。
しかし、困ったことに自己完結している人間には言葉が通じない事が多い。猫語がわかる変わりに、人間の言葉を忘れてどうするというのだろう。
それに限らず、この明王寺南無菜を口先で言いくるめることは至極困難。
というか、コイツは昔っから、口で何を言っても聞かないから蘭も拳や足が出るようになったのだ。

仕方ないと諦める。
溜め息をつき、右腕をゆっくりと伸ばす。
意識を集中して、目を凝らす、一瞬の隙も出さず、子猫の爪が翻るよりもなお早く手を引っ込められるように。
殺気を飛ばすなと南無菜が言ってるが、無視。
ゆっくりと、しかし確実に蘭の右手は子猫の滞空領域に近づいている。早退距離が近づくにつれ比例して手の進行速度は弱まって行く。
だから殺気を抑えてくれとのたまう南無菜の懇願を無視。もし引っ掻かれたらその時はお前が償うのだ。身体で。痛みで。
子猫には一切殺気をむけていないからこれは威嚇じゃないと自己完結。
閉ざされた部屋の一室を完全に掌握するような集中力で、じりじりと手を動かす。

静寂が数秒ほど流れた。

張りつめた糸に垂らした水滴が落ちるような、冷徹な空気が、ふいに終わった。

「引っ掻かれない・・・・・・」
「だろ」

それどころか指先を舐められた。小さな舌でペロって・・・・・・
蘭は、あまりの出来事に思わず放心して、さらに手を伸ばすとおそるおそる、その小さな頭に掌を置いた。子猫の耳がピクリと跳ねる。

思わず、撫でる。あたたかかった

撫でる。毛並みがすっごくやわらかかった。

撫でる。あ、髭がピクって、跳ねた。ピクッて!!

か、かわいい。

な・ん・だ・こ・の・か・わ・い・い・い・き・も・の・は!!?

ふにふにしててころころと丸っこくて猫っ毛の肌触りってこんなのなんだ鼓動早いうわ目が目が合ったこっち見てるヤバイ可愛すぎてなんか頭がくらくらして来たってスゴイホントに虹彩が縦なんだ瞳の色黄色いし綺麗でちょっと手伸ばしてきたよ生肉球ひんやりぷにぷにぷにぷにしててなんだこれぷにぷに気持ちよすぎるぷにぷにぷにぷにあっ子猫でもちゃんと爪あるんだわぁすごいすごいほんとに引っ掻かれないなんて初めてなにこれもう私死んでもいいい夢じゃないよねこれしっぽふらふらゆらゆらしてあぁもうなんだかめまいがあれなんだコレもしかして夢かなるほどそうに違いないわけない夢じゃないし剥製でもなくてうわホントに猫に触ってる生なまの猫かわいらしくにゃんこ英語でキャットでキャットっていったらトムでハッ!!?ねずみだネズミはどこだジェリー!!?猫には鼠と相場が決まっているええい何所に居るネズミねずみといったらチーズかじゃあチーズはいったいどこにチーズはミルクから作られるそういえば猫に人間用のミルクのませちゃいけないって聞いたような牛か?牛がいけないのか?おのれ高級食材(偏見)でなかなか私の食卓にのらない癖にこんなところで邪魔立てするのかええい忌々しい牛がダメなら羊かそれとも山羊かむしろ私が出すべき?うんそうだそうしようそうに違いないなうん今の私ならなんかいけそうな気がするし出るかも?いや出るなコレはもう出すぞ母乳私の中の母性が今目覚めるっていやいやいやいやまて待つんだ落ち着きなさい通鎧蘭あなたは委員長でしょう早合点してはいけないこれは罠よいわく窮鼠猫を噛むというじゃないかトムとジェリーだってトムはよく死なないなあの仕打ちを受けて脚本家は猫に何か恨みでもあるの猫の好物=鼠なんて子供だましこんなちっちゃい子猫がネズミに噛みつかれでもしたらそうだ感染症とかも危ないわおのれドブネズミあれ?でもでもハムスターとかも一応げっ歯類よねうん子猫にハムスター悪くないんじゃないかしらそうと決まれば向日葵の種を探してネズミ捕りに仕掛けないと・・・・・・



「おーい、帰ってこーい」
「ハッ!!? 私はなに、を・・・・・・」

蘭の、人生で最も幸福な時間は等々に終わりを告げる。
耳に届いた声に気づき反射的に顔をあげて睨みつける、がにやけた顔では何をやってもさまになったものではない
そこで南無菜の珍妙な物を見て何とも言えないような視線に気づく。目が合った、と思ったら視線を逸らされた。
・・・・・・とりあえず殴っておく。グーで、頭を、かなり強く。

脳細胞の死滅に頭を抱えている南無菜の横で深呼吸して気を落ち着かせる。意図的に子猫は見ないように見ないように、また正気を失うわけにはいかない。

なにはともあれ、常人には理解しがたい証明方法だったかもしれないが、触っても引っ掻かれないという事は通鎧蘭にとっては驚くべきことだった。
有り得ない事だった。南無菜がテストで100点をとった時よりも心臓がまだバクバクいってるのがわかる。
必死になって平静を装っているが、それほどの出来事だったのだ。動物に嫌われないという異常事態は。

そして、なるほどこれは普通じゃないと通鎧蘭はあっさり理解した。

呼吸を落ち着けるための溜め息を吐く、吐いて、吸う。動悸を意志の力で抑えつける。

南無菜に、聞かなければいけない事があるからだ。感情に流されるのはその後でなければならない。

「・・・・・・で?」
「・・・・・・助言を、その、頼む」
「で?」
「頼む」
「はぁ・・・・・・あのね、キミはどうしたいのよ、キミは」
「わからん」

2人して、溜め息。挙動なしで拳骨を叩きこんでやろうかとも思ったが、我慢する。
ポカポカ殴ってこれ以上バカになられても困る・・・・・・いや、いまさらか。我慢の限界を超えたという事で、一発殴る。

「南無菜ぁ、キミねぇ、いい加減にしないと私も怒るよ」
「あんたは何時も怒ってるだろうに」
「なんか言った?」
「で?どうなんだよ」

まっすぐと、二人の視線が交わった。


「手伝ってくれるのか、くれないのか」


何がしたいのかも自分でわかってない幼馴染の声は、驚くほど真摯だった。
自分がどうしたいのかもわからない。自分の家で飼いたいのか、里親を探して信頼できる人に預けたいのか、それとも私に引き取ってほしいのかも不明。
どうしたいのかも自分で決められない、自分の想いさえわかってない、ただの馬鹿だ。
それなのに、迷いは一切無いまっすぐすぎる、震えのない力強い声。
私にわかるのは、元いた場所に返すとか、ダンボールに『拾ってやって下さい』とか書いて寒空の下に放置するとか、そういった見捨てるような事をしたくないということだろう。

双方、しばし無言で、にらみ合う。
折れるのは、当然弱い方。

「ったく、拒否権なんてないって知って言ってるでしょう。妖怪とか幽霊とか、はぁ、もう誰が知ってるってのよそんなの!!わかったわよ!!」
「どっちだよ」
「わかったっつってるでしょ、請け負ったっていってるの!!あぁもう気が滅入る・・・・・・」


にゃあ


不意に聞こえた子猫の泣き声、一瞬の静寂。

「そうか、サンキューな」
「どういたしまして!!・・・・・・はぁ」

悪かった、などとは言わない。蘭は子供のころから、南無菜が謝っている姿を見たことは無かった。
番長らしく、人一倍頭の働きが遅く、暇すぎてどうしようもない時に教科書流し読みするくらいだから成績だっていいわけがないのに、南無菜は何一つ間違いを起こさない。問題は数えきれないほど起こすのだが。
少しでもわからないことは、わからないで済ませてしまう。正しい答えしか出そうとしないし、事実出さない。何時だってテスト用紙は完全正解か無回答のどちらかだ。
だからこそ、絶対に自分が悪いとは口にしない。私に限らず、迷惑をかけたとき、誠実すぎる口からは何時だって感謝の言葉しか出てこない。
おそらく、バカなだけで頭は良いのだろう、アホなだけで優しいのだろう、きっと私なんかよりはよっぽど。協調性は限りなくゼロに近いが、人間として、間違ったことをしてはいない。
紙一重というやつなのだ。
・・・・・・なんか腹が立ってきた。


にゃあ


ふと、もしかすると私の見ていないところで、人に謝った事があるのかもしれない。
そんなことが頭の片隅に浮かんできた。
仮にも人の子、親か、誰かに・・・・・・


にゃあ


しかし、すぐさまにその甘い考えを否定した。

有り得ない。それは無いな、と。驚くほどあっさりと、通鎧蘭は明王寺南無菜の人間性を否定した。





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